1
「おはよう、ルイリ」


2
「水魔の私が、返せる言葉はないよ」


3
「この子は、フィーア。俺の弟子」

4
 じゃあ、冬厄が去ったというなら、
水魔はどうなった?


5
「むかしにした約束を、
いまでも守ろうとしているくらい」


6
「もう、逃げないでね」




[Story]


 隠しつづける嘘を胸に抱いた私は、この夏も愛おしい呪術師に招かれて、水面の向こう側へと水を蹴った。
 けれどひさかたぶりに、湖に眠る水魔である私を水の外へと招いた彼、呪術師のルイリは言うのだ。 「俺がまた水魔を招くことができたのは。俺たち人間の時間で数えて、三年ぶりなんだよ」と。
 ずれてしまった時間。ひとり大人になったらしい、かつての少年。
 変わり果てた世界に戸惑いながらも、私は今年も、彼と夏を共に過ごそうとする。けれども、そこにはやはり違和がよこたわっていて。



[Character]


サリエ/湖に眠る水棲の魔
雨の天秤の均衡を見極めるため、夏の訪いとともに呪術師に招かれた。
金の髪の年若い少女。

ルイリ/水魔招きの呪術師
水魔の女王の加護をうけた一族の生まれ。
紫の瞳の少年として、かつてサリエにはにかんだ青年。

フィーア/呪術師の弟子
まじないの気配をいろこく纏う。
リボンで結った長い金髪が似合いの、おとなびたこども。




[Attention]


この作品は、両片思いアンソロジー「銀のリナリア」への寄稿作です。 アンソロジー発行から一年がたちましたので、サイトに掲載させていただいております。
主催の藍間真珠さん、お手にとってくださたった皆様、どうもありがとうございました。



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